理不尽なクレームへの対処
かつて、日本人は道徳的な国民性を持っているといわれていました。その真偽を検証することはできませんし、単なる幻想や神話だったのかもしれません。
しかし、今日、理不尽なクレームが蔓延してきていることは確かです。その原因がどこにあるのかはわかりません。仕事や家庭生活、情報社会や電子機器にストレスを感じる人が増えているのかもしれません。
お客様が本当に不満や苦痛を持っていて、「店(会社)の商品サービスを改善してほしいという欲求を持っているのかどうか」は、お客様との対話によって伝わってきます。単にお客様がストレスのはけ口にクレーム対応スタッフを使っているのではないかと疑われることもあるでしょう。
それでも、お客様にあからさまな拒否の対応をとってしまうことは避けなければいけません。たとえ、お客様が理不尽なクレームを付けていたとしても、クレーム対応でさらに不満を持ってしまうようなことがあれば、そのお客様はお店や会社にとって、危険な存在になってしまう可能性があるからです。理不尽なクレームを寄せてくるお客様に対しても、一定の満足を感じてもらえるような誠意ある対応が必要なのです。
お客様の言い分に共感できないとしても、お客様を取り巻く環境を想像し、「どうして、そんな主張をするのか?」と考えるのではなく、「きっと、ストレスがあるのだろう」「こんな出会い方をしないのならば、この人はいい人なのに違いない」と考えた方がいいでしょう。
クレーム対応においては、何よりも誠意ある対応と理性的な判断が必要ですが、あまりにも理詰めでお客様に対応するのは先客サービスの本領ではありません。お客様が正しいか、店・会社が正しいか、もしくはあなたが正しいかが問題なのではありません。裁判ではないのです。お客様に満足していただくことが重要なのです。クレーム対応においてもこの点については忘れてはならないということです。お客様と真理・正義について争い、勝つことがお店・会社の目的ではないのです。
ただし、お客様の言い分にどうしても納得できないこともあるでしょう。それでも一歩引かなければならないという場面は、かなりのストレスがたまることでしょう。事実、接客サービスのスタッフの多くがメンタルヘルスの支援が必要な状況にあるといいます。厚生労働省も職場の組織的なメンタルヘルスの対応が必要であるという考えを示しています。できれば、理不尽なクレームに対応するような場合には、一人のスタッフに任せきるのではなく、スタッフみんなで共有したり、上司がフォローするなどを行い、過重なストレスが一人にかからないように工夫しましょう。
個人批判にはどう対処する?
誰もが怒られることは好きではありません。たとえ、自分が悪いとわかっていても、人から非難されたりすることは心地よくないものです。
しかし、一人の前で恥をかくよりも、100人の前で恥をかくほうがつらいでしょう。できるだけ、はやく問題点を指摘してもらったほうが傷は浅くてすみます。
理性では、そのように理解していたとしても、実際にお客様から個人にフォーカスしたクレームを受けると、自分のすべてが否定されたような衝撃を受けるときがあるでしょう。
お客様からのクレームがたとえ、お店や会社へのものではなく、あなた個人に対するクレームであったとしても、激昂したり、気分を悪くしたりする必要はありません。あなたの問題点を指摘してくれるお客様は大切な先生なのです。もし、そのお客様が指摘してくれなければ、ずっと後まで問題点に気づかずに恥や欠点をさらしていかなければならないからです。傷はさらに大きくなっていたでしょう。個人に向けられたクレームは接客スタッフの成長のために不可欠の要素で、個人に向けられたクレームが品質の高い接客スタッフを育ててくれるのです。
また、あなた自身についてお客様がクレームを寄せてくださったとしても、それはあなたの人格、そのものを否定しているわけではないのです。個人へのクレームとはいえ、多くの場合、「接客サービススタッフとしてのあなた」に対するクレームであり、本当に「個人的な」人格に対するクレームではないのです。ですから、あなたの役割・職務に対するクレームであり、自分とは切り離されたものであるという考えで、理性的に対応することが必要です。理性的に対応し、静かに自分を見つめなおし、改善するべき点を見つけて、対応していきましょう。
クレーム担当者、上司は接客スタッフ一人一人の性格を把握した上で、個人的なクレームに一緒になって考え、点検し、対応していかなければいけません。単に「個人的なスキル・能力の問題」として、個人に懲罰的な処分をしてはいけません。一緒になって、問題点を解決していく姿勢で、クレームを指摘された接客スタッフに「あなたの接客スタッフとしての対応へのクレームで、あなたへの個人こうげきではないから」と必ずフォローをしていくことが必要です。個人的なクレームを受けた接客スタッフは、飛躍的な成長を今後していく金の卵なのですから。
個人的な批判はできる限りはやく指摘してもらう方がありがたいし、批判は人格攻撃ではなく、役割・職務に対するクレームであることを心に刻みましょう。